特許翻訳のレートが業界全体で下がり続ける理由【どう稼ぐか】

今回は翻訳についての話です。

Google翻訳を筆頭に機械翻訳の精度がどんどん上がっています。

だからといって翻訳の仕事がなくなるわけではありません

しかし、例えば『特許翻訳』業界で見れば全体的にレートが下がりつつあるのは事実です。

翻訳と言ってもいろいろありますが、『特許翻訳』を例に、なぜこのタイプの翻訳のレートが下がり続けるのか、解説します。

翻訳者は今後どのような翻訳で稼いでいくべきか、についても少し触れます。

特許翻訳のレートが業界全体で下がり続ける理由

翻訳のレートが下がるという事態は深刻です。

これから翻訳の仕事をする人が仕事を探してみたら低レートの仕事しか見つからず、聞いていた話と違う、ということになります。

あるいは、既にプロとして活躍していた場合であれば、ある日、突然、顧客からこう言われます:
「そのレートでは仕事を出せなくなりました。レートを下げてもらえませんか?」

打診があるならまだ良い方でしょう。
急に仕事が来なくなる方が多いかもしれません

翻訳と言ってもいろいろありますが、機械翻訳が得意な分野と苦手な分野があります

機械翻訳が活躍できる分野では翻訳者のレートが下がる現象が起きていて、特許翻訳はその一つです。

高レートの翻訳者が不要になった

顧客がたくさんのお金を払う理由は、高品質な成果物を求めるからです。

しかし、機械翻訳の向上により、上位1%未満のトップレベルの翻訳者に高レートで仕事をまかせなくても、充分に高品質な翻訳ができるようになってきました。

つまり、機械翻訳と、まあまあのレベルの翻訳者を組み合わせれば低コストでかなり良い品質の成果物を得られることに、特許事務所や翻訳会社が気づいたということでしょう。

MTPEと校正の組み合わせで高品質に

最近の傾向としては以下の通りです。

  1. 一つのチームにはMTPE(機械翻訳の後、人が編集)を担当させる
  2. 別のチーム(ターゲット言語が母国語)にMTPE後の校正を担当させる

上記1.に関しては、これだけを専門で行う業者もいますが、一般に翻訳としては低レートです。

上記2.に関しては私も定期的に取り組んでいます。(今となってはメインの仕事ではありませんが)

校正というのは俗にいうチェッカーのことで、bilingual revisionのことです。

1.のチームから上がってきた物を、原文と比較して誤りを修正します。

理由は後述しますが、特許翻訳の場合、機械翻訳がうまく機能するので、MTPEが終わったころにはかなりの品質になります。

既にまあまあの品質になっているので、校正者の負担は軽く、細かいレベルの修正に集中できます。

 

尚、この状況でも量をこなせば充分に稼げます。

例えば校正のレートが一単語3円でも、一日に2万語こなせば一日の稼ぎは6万円です。

なぜ機械翻訳は特許翻訳が得意なのか

機械翻訳の影響を大きく受けつつあるものの一つが、特許翻訳です。

他の種類の翻訳との比較を少し混ぜつつ、なぜ機械翻訳は特許翻訳が得意なのか、解説します。

内容は複雑でも文章構成は単純

まず、特許明細書に限らず法律に関する文書はどれも同じ傾向にありますが、文章の構成は単純です。

英語で例えると、英検2級レベルの文法が理解できるなら、リスニング力が皆無の、なんちゃってバイリンガルでも読めます。
(書いてある内容が複雑で、母国語で書いてあっても理解できない、ということはあるかもしれませんが)

しかも、文書の形式が決まっているので、表現も限られています。

小説の翻訳に比べればはるかに簡単です。

請求項など、やたら一文が長いこともありますが、仕組みは似たような物なので、開発者の力を借りればAIに仕組みを理解させるのは簡単です。

ソースは文章のみなので、文法は正しく丁寧

映像翻訳やゲーム翻訳とは異なり、特許翻訳のソースは原文のドキュメントだけです。

どのセクションから読んでも読み進められるようになっていて、itやthemなどの指示代名詞は比較的少ないので機械翻訳に向いています。

しかも文書の目的からして、省略されることは少なく、くどいくらいに丁寧です。

もちろん、原文においてスペルミスや文法の誤りがあることもありますが、文章の性質上、比較的少ないので、機械翻訳にかける前の編集作業はさほど必要ありません。

 

一方、映像翻訳やゲーム翻訳は、人でないとまともに翻訳できないのが現状です。

声のイントネーションなどから、その人が怒っているのか、泣いているのか、冗談を言っているのか、嫌味を言っているのか、正しく把握しないと誤訳になったりします。

日本語などの言語では、話している人の性別や年齢、性格などによって言葉遣いが変わってきます。

また、一つの単語が複数の全く異なる意味を持つことがよくありますが、人が映像を見れば簡単に特定できるのに、機械だったら映像を理解できず、誤った訳語を選択してしまったりもします。

視聴者の対象年齢を考慮して易しい漢字を使わないといけなかったり、字幕の長さの関係で原文より長い文にはできない、などの制限もあります。

ゲームの実況動画の翻訳の場合、英語ネイティブでない人が英語で実況していたりして、文法がめちゃくちゃだったりします。
それでも、人が観る場合は映像があり、イントネーションを聞けるので、何を言っているか簡単に分かるのですが、文法がめちゃくちゃだと機械翻訳には理解不能です。

こういったことのすべてが機械翻訳では対応できていないため、優秀な翻訳者の需要はなくならず、従って稼ぎやすいと言えます。

特許明細書は公開されている

それから、特許明細書は公開されている以上、参考にすべき対訳がいくらでも手に入るので、AIの独壇場になり得ます。

つまり、全世界に公開されている特許明細書を全てAIに取り込んでしまえば、高度な専門用語に対しても、機械翻訳が的確な訳語を見つける確率が非常に高まります。

機械翻訳が専門用語を正確に訳せるのは、参考にできる文書を大量に無料で取り込めるからです。

まとめ

以前に比べると特許翻訳で稼ぐことが難しくなってきている理由を書きました。

幸い、翻訳者が別の業界の翻訳に切り替えることはそれほど難しくありません。

どんな業界の翻訳が、やってて楽しくて、しかも稼ぎやすいのか、今後また別の記事にまとめる予定です。

 

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